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ネコの踊り場

ネコの踊り場

日本の民話

むかしむかし、相模さがみの国(さがみのくに→神奈川かながわ県)の戸塚とつか(とつか)に、水本みずもと屋(みずもとや)という、しょうゆ屋がありました。

主人しゅじんとおかみさんには美しい娘がいて、メスの黒ネコを飼っかっています。

何代も続いつずいたお店で、

番頭ばんとー

(ばんとう)のほかに小僧こぞーが一人いました。

しょうゆ屋は仕事がらしごとがらどうしても手が汚れよごれやすいのですが、だからといって汚れよごれ手ぬぐいてぬぐいで手をふいていたのでは見た目みためが悪いので、きれい好きすき主人しゅじん口ぐせくちぐせのように、

「腰に下げるさげる手ぬぐいてぬぐいは、毎日まいにち洗うあらうように」

と、みんなに言いいいきかせていました。

そのため店が終わるおわると、それぞれが自分じぶん手ぬぐいてぬぐい洗っあらって二階の物干しものほし手すりてすり干すほすのでした。

ある朝の事、手ぬぐいてぬぐい取り入れよとりいれようとしたら、娘の手ぬぐいてぬぐいがなくなっていました。

きちんと止めとめてあったので、風に飛ばさとばされるはずはありません。

泥棒どろぼー

仕業しわざかとも疑っうたがってみましたが、まさか手ぬぐいてぬぐい一本だけを盗んぬすんでいくドロボウはいません。

(どうして、わたしの手ぬぐいてぬぐいだけが、なくなったのかしら?)

不思議ふしぎ思いおもいながらも、娘は新しい手ぬぐいてぬぐい出しだしてきました。

そして次の日の朝、今度こんど主人しゅじん手ぬぐいてぬぐいがなくなっていたのです。

(まさか、小僧こぞーのイタズラではあるまいな)

主人しゅじんはすぐに小僧こぞー呼んよんで、聞いきいてみましたが、

違いちがいます。手ぬぐいてぬぐいなんか、とるはずがありません」

と、言ういうのです。

その次の日の朝は、おかみさんの手ぬぐいてぬぐいがなくなっていました。

たかが手ぬぐいてぬぐいといっても、三日続けつずけてなくなるというのは、ただ事ただごとではありません。

お前おまえ、本当に知らしらないのかい?」

おかみさんが小僧こぞーにたずねると、小僧こぞーが顔を真っ赤まっかにして怒りおこり出しました。

「どうして、わたしに聞くきくのです? そんなにお疑いうたがいなら、わたしの荷物にもつ調べしらべてください!」

「いや、すまない。考えかんがえてみれば、家の者で手ぬぐいてぬぐいをとるやつなんているはずがない」

主人しゅじんはあわてて、小僧こぞーをなだめました。

「それに手ぬぐいてぬぐいぐらい、何本盗らとられたって、かまやしないのだから」

主人しゅじんはそう言いいいながらも、手ぬぐいてぬぐいの事が気になって商売に身が入りはいりませんでした。

番頭ばんがしら手ぬぐいてぬぐいがなくなるたびに疑わうたがわれる小僧こぞーの事を思うおもうと、同じ店で働くはたらく者として面白くありません。

そして小僧こぞーなどは、店で働くはたらく気がしなくなってきました。

だからといって店をやめるわけにもいかず、このうえは自分じぶん手ぬぐいてぬぐい泥棒どろぼー捕まえるつかまえるしかないと思いおもいました。

そこでその夜、小僧こぞー雨戸あまど(あまど)を少しだけ開けあけて、寝ずの番ねずのばんをする事にしました。

物干しものほし手すりてすりには、五本の手ぬぐいてぬぐいがきちんと並んならん干しほしてあります。

ていろ! 必ず手ぬぐいてぬぐい泥棒どろぼー捕まえつかまえてやる」

小僧こぞーはねむたいのをがまんして、ジッと物干しものほし見上げみあげていました。

それでも昼間ひるまの仕事の疲れつかれで、ついウトウトしかけたその時、一本の手ぬぐいてぬぐいがフワリと庭にまいおりたのです。

「おやっ?」

手ぬぐいてぬぐいはまるで、地面じめんをはうようにして表の方へ飛んとんでいきます。

待てまてえ!」

小僧こぞーは外へ飛び出すとびだすと、飛んとんでいく手ぬぐいてぬぐい追いかけおいかけました。

でも手ぬぐいてぬぐいは、そのまま暗やみくらやみの中に消えきえてしまいました。

騒ぎさわぎ聞きつけききつけて、番頭ばんがしらやおかみさんが起きおきてきました。

小僧こぞーは今の出来事できごとを、たままに話しはなしました。

手ぬぐいてぬぐいが一人で動くうごくなんて、そんなバカな。お前おまえ、夢でもていたんだろ?」

おかみさんが言ういうと、番頭ばんがしら物干しものほし指さしゆびさしました。

「しかし手ぬぐいてぬぐいは、たしかに一本なくなっていますよ」

「あら本当ほんとー。ああ、気味が悪いねえ。もういいから、しっかり戸締まりとじまりをしてなさい」

おかみさんはそう言ういうと、自分じぶん部屋へや戻っもどって行きました。

あくる日、主人しゅじんは隣町の知り合いしりあいで酒をごちそうになり、遅くなってから家へ戻っもどってきました。

月夜つきよの道をいい気分きぶん歩いあるいていると、村はずれの小高い林の所で誰かの話し声はなしごえ聞こえきこえてきました。

(はて、こんな夜中やちゅーに、誰が話しはなしているのだろう?)

不思議ふしぎ思っおもっ話し声はなしごえのする方へ近づいちかずいてみると、何と十数匹のネコが林の中の空き地あきちに丸くなって座っすわっているではありませんか。

そしてもっと驚いおどろいた事に、その中の三匹が手ぬぐいをあねさんかぶり(→女の人の手ぬぐいてぬぐいのかぶり方)にかぶっているのです。

(あっ、あの手ぬぐいてぬぐいは!)

主人しゅじんは、もう少しで声を出すだすところでした。

一つひとつ自分じぶん手ぬぐいてぬぐいで、あとは、かみさんと娘の手ぬぐいてぬぐいなのです。

(さては、ネコの仕業しわざであったか)

主人しゅじんはネコに気づかきずかれないよう、さらに草むらくさむら隠れかくれて息を殺しころしました。

「お師匠ししょー(ししょう)さん、遅いね」

一匹のネコが、言いいいました。

「早くないかな。今夜こんやこそ上手じょーずに踊(おど)って、わたしもお師匠ししょーさんから手ぬぐいてぬぐいをもらわなくちゃ」

もう一匹のネコが、言いいいました。

(へえ、踊りおどり習おならおうというのかい。これはおもしろい)

主人しゅじんは、お師匠ししょーさんというのが現れるあらわれるのを待ちまちました。

しばらくすると、頭に手ぬぐいてぬぐいをのせた黒ネコが、

「ごめん、ごめん、おそくなって」

と、言いいいながらやってきたのです。

(あのネコは、家のネコじゃないか!)

主人しゅじんは、目を丸くしました。

「それじゃ、さっそく始めよはじめようか。さて、今日きょーはだれに手ぬぐいてぬぐいをあげようかな」

「わたし」

「いえ、わたし」

「わたしよ、わたし。絶対ぜったいに、わたし」

ネコたちが、いっせいに手をあげました。

「だめだめ、一番いちばん上手じょーず踊っおどった者でなくちゃ」

ていた主人しゅじんは、なんだかワクワクしてきました。

(こいつは驚いおどろいたな。うちのネコがネコたちの踊りおどりのお師匠ししょーだなんて。それにしてもあいつ、いつ踊りおどり覚えおぼえたのだろう。・・・そういえば娘が踊りおどり習っならっている時、ジッと動かうごかずにていたっけ)

「まずは、昨日きのーのおさらいからね。はい、♪トトン、テンテン、トテ、トテ、トテトントン」

口で

三味線しゃみせん

の真似をしながら黒ネコが踊るおどると、ほかのネコたちもいっせいに踊りおどりはじめました。

「はい、そこで腰を回しまわして、手を前に出しだして、それっ、♪トトン、テンテン、トテ、トテ、シャン、シャン」

(なるほど、お師匠ししょーというだけあって、家のネコも大したものだ)

主人しゅじんはこっそり草むらくさむらをはなれると、ネコに気づかきずかれないように家に戻っもどっていきました。

朝になると、主人しゅじん上機嫌じょーきげん(じょうきげん)でみんなに言いいいました。

手ぬぐいてぬぐいの事なら、もう気にしなくてもいいよ」

「いいえ、今夜こんやこそ、必ず手ぬぐいてぬぐい泥棒どろぼーをつかまえてみせます!」

「もういいんだよ。お前おまえ寝ずの番ねずのばんをしていたそうだが、もうその必要ひつよーはないよ」

「と、言ういうと、

だんな

さまは手ぬぐいてぬぐい泥棒どろぼーご存じごぞんじで?」

番頭ばんがしら尋ねるたずねると、主人しゅじんはニヤリと笑っわらっ言いいいました。

今夜こんやになれば、すべてわかるよ」

その日の夜、主人しゅじんがみんなに言いいいました。

「さあ、これからみんなで出かけるでかけるよ」

今頃いまごろ? いったい、どこへ行くいくのですか?」

番頭ばんがしら小僧こぞーも、首をかしげました。

「いいから、だまってわしについておいで」

主人しゅじんは店の戸締まりとじまりをさせると、おかみさんと娘、それに番頭ばんがしら小僧こぞー連れつれて家をました。

村はずれの小高い林の前に来るくると、主人しゅじんはみんなを草むらくさむらの中に隠れかくれさせます。

「いいかい、どんなことがあっても、決して声を出すだすんじゃないよ」

いつの間にか、満月まんげつ(まんげつ)が頭の上にのぼっていました。

と、その時、あちこちからネコが集まっあつまって来ました。

なんとその中の四匹は、頭に手ぬぐいてぬぐいをかぶっているではありませんか。

(あの手ぬぐいてぬぐいは!)

みんなおどろいたように、顔をあわせました。

そこへ、頭に手ぬぐいてぬぐいをかぶった黒ネコが現れあらわれたのです。

それは間違いまちがいなく、店で飼っかっているネコでした。

(なんだ、手ぬぐいてぬぐいドロボウは、店のネコだったのか)

みんなはホッとするやら、あきれるやら。

それでもこれから何が始まるはじまるのかと、かたずをのんで見守っみまもっていました。

すると、黒ネコが言いいいました。

今夜こんや満月まんげつ、みんなで心ゆくこころゆくまで踊りおどりましょう」

「はい、お師匠ししょーさま」

ネコたちは、いっせいに黒ネコをかこんで輪(わ)になりました。

♪ネコじゃ、ネコじゃと

♪おっしゃいますが

♪あ、それそれ

黒ネコの踊りおどり合わせあわせて、ネコたちはそろって踊りおどりはじめました。

両手りょーてを前に出しだしたり、腰を振っふったりと、なんともゆかいな踊りおどりです。

「どうだい。これで手ぬぐいてぬぐいのなくなったわけが、わかっただろう」

主人しゅじんが小さな声で言ういうと、みんなニコニコしてうなずき、いつまでもネコたちの踊りおどりていました。

さて、誰がこの事をしゃべったのか、ネコの踊りおどりの話はたちまち町のうわさになり、こっそり見物にくる人がふえるようになりました。

するとネコたちもそれに気がつききがつき、いつの間にか踊るおどるのをやめてしまったのです。

水本みずもと屋(みずもとや)の黒ネコは、その後そのご手ぬぐいてぬぐい持っもってどこかへ出かけでかけていきましたが、そのうちに戻っもどって来なくなりました。

主人しゅじんはネコ好きの人たちと相談して、ネコの踊っおどっていたところに供養碑(くようひ)をたてました。

今ではその供養碑(くようひ)はなくなってしまいましたが、ネコの踊りおどりの話は長く語りつがかたりつがれて、今もそこを『踊り場おどりば』と呼んよんでいるそうです。

おしまい


相模
神奈川
戸塚
水本
しょうゆ
主人
おかみ
飼う
続く
番頭
小僧
仕事がら
汚れる
手ぬぐい
見た目
きれい
好き
口ぐせ
下げる
毎日
洗う
みんな
言う
きかせる
終わる
それぞれ
自分
物干し
手すり
干す
取り入れる
なくなる
止める
飛ばす
泥棒
仕業
疑う
盗む
不思議
思う
出す
今度
イタズラ
呼ぶ
聞く
違う
続ける
ただ事
お前
知る
かみさん
たずねる
真っ赤
怒る
疑い
荷物
調べる
考える
あわてる
なだめる
盗る
入る
働く
やめる
捕まえる
雨戸
開ける
寝ずの番
並ぶ
見る
見上げる
昼間
疲れ
しかける
まいおりる
地面
飛ぶ
待つ
飛び出す
追いかける
暗やみ
消える
騒ぎ
聞きつける
起きる
出来事
話す
動く
指さす
本当
戸締まり
寝る
部屋
戻る
知り合い
月夜
気分
歩く
はずれ
話し声
聞こえる
夜中
近づく
空き地
座る
驚く
かぶる
一つ
気づく
草むら
隠れる
殺す
師匠
来る
今夜
上手
もらう
踊り
習う
現れる
のせる
やってくる
始める
今日
あげる
いえる
絶対
一番
踊る
こいつ
あいつ
覚える
昨日
さらい
トトン
トテトントン
三味線
回す
シャン
はなれる
上機嫌
ょうきげん
つかまえる
必要
だんな
ご存じ
尋ねる
笑う
すべて
わかる
出かける
今頃
行く
かしげる
だまる
おいで
連れる
出る
満月
のぼる
あちこち
集まる
おどろく
間違い
あきれる
始まる
かたず
見守る
心ゆく
かこむ
おっしゃる
合わせる
そろう
両手
振る
うなずく
しゃべる
ふえる
気がつく
その後
持つ
たてる
語りつぐ
踊り場

: N1

: N2

: N3

: N4

: N5

muksi, kanayomi

「今日は何の日?」

2021624

元:地球くん

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